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連載コラム「いまここを生きる」(第186回)スプーン(その2)
 「アーン」と言ってごらん。そう言いながら食べものを食べさせてもらう暮らし。スプーン・フィード(spoon feed)の生活。
 問題はこのことなんだ。
 こういう暮らしを「よし」とする風潮が日本に蔓延。バブル経済のころから目立ち始めた。そうして1995年の阪神大震災とオウム事件以来、不安恐怖をいっそう深化させ、一方で日本社会を統合化・集団化させ、もう一方でスプーン・フィーディング化させていったのだと思うのだ。
 大震災は地震列島の宿命。それはそうなのに、どこかニヒリズムが生まれた。「日本では壊れない」と豪語されていた高速道路が落下したりした。オウムのサリン事件でパニックが加わった。
 オウムは布施の原則(社会の余りもので仏者は生きること)を無視した。たしかに。それでも、当時、ヨガ・瞑想という言葉すらも口にできなかったもの。とにかく邪宗門としてのレッテルをオウムに貼るだけ。臭いものにフタして、排除したい。真相・実相の究明にはほど遠い感じだった。とにかく「吊るせ」「吊るせ」の合唱の声だけがこだました。真相を明らかにしておかないと、また形をかえて、必ず起きる。ちょうど太平洋戦争の発生原因を明らかにしないと、再発するかのようになるんだ。
 ちなみに私の死刑についての考えは、明確に廃止。戦争と死刑、ともにやめたほうがいい。一歩譲って、たとえ死刑規定が残ったとしても、執行しないことが重要。「なんでこんなこと、したんだ」という考察、煩悶なしに、「国権の発動たる」暴力で処理抹消させるなんて、とんでもない。5年、10年……と執行停止がつづくことがとにかく大切。忍辱が大切。
 「早く吊るせ」と言っているひとには処刑現場に立ちあってもらえばいい。処刑情報も公開することが議論の前提でもある。暴力で解決、前進した懸案事案はひとつもないんだということ、気づいてほしい。
 ちなみに、日本の犯罪発生件数はこの10年で半減。殺人事件数も確実に減少している。殺人事件ピークの1954年(私が生まれた前年だ)の4分の1にまで減少しているんだ。
 このこと、もっともっと知られていい。コモンセンスにし、免疫力としていこうじゃないか。
 なのに、死刑判決は増えつづく。2007年にはなんと52回も言い渡されている。
 この20年間、オウム事件以来、「凶悪な顔のない悪魔が突然やってきて、理由なき殺戮を白昼堂々としている」なんて思っていたら、それこそ危ない。妄想だ。心の中の不安妄想が醸し出され、拡大しているだけなんだ。
 もともと日本社会は多民族多文化社会ではない。均質均一社会で、同調圧力がかかりやすい社会。少数派批判派が少ないし、大切にした経験もほとんどない。育てようという意識もほぼない。見下して、無視する習慣がつづいている。
 どんどん同調圧力が加わり、統合化、集団化が進み、監視カメラが不必要に増え、「味方か敵か」「白か黒か」という原理主義発想がはびこり、ギスギスし、底意地が悪くなっていっている。マッチョな政治家(米国には立ち向かわず、弱者だけいじる「はりぼて」男)なんかに拍手し、自らの実存を丸投げ。観客民主主義から、次第に投票場にも行かなくなっている。米国の核の下、食糧も石油も他国に依存。愛犬愛猫や「ゆるキャラ」に魅れながらも、隣国を仮想敵国に祭り上げ、「自衛のため、攻撃せい」とわめく。自省力のあるひとは自分を責めて、自問自閉し、あるいは自殺(減少しているとはいえ、2015年度は2.4万人)。自分の足がちょっとでも踏まれたら虎声で怒り、他人の足を踏んだって、全く猫なで声の平気の平左。
 保守化じゃない。統合化、集団化であり、「スプーン・フィーディング化」なんだ。その旗手が現首相。痴愚神王の時代の始まり――。

  神々の時代がかつてあった
  すべてのいのちがそれぞれに神々だったとき
  すべての言葉に平和の香りがした
  すべての繕いにも味つけにも平和の笑い声が染みていた

  神々の「逝きし世の面影」(注)が消えてから
  平和の匂いは消え、良きひとゆえに騙されつづけ、戦争をつづけた
  しだいにみんながみんな偉くなくなり
  偉くないことによって、神々に戻っていったのはほんとうか

(注)渡辺京二『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー)
(1月21日)

(付記)以上の「無事」「スプーン(その1)」「スプーン(その2)」で、2016年の年頭の挨拶とする。
| 虫賀宗博 | いまここを生きる | 10:51 | comments(1) | trackbacks(0) | - | -
ブログ管理人(私=楢木祐司)の事情により、このコラム原稿の掲載が遅れました。更新を待っていらした読者の皆さん、ごめんなさい。
| 楢木祐司 | 2016/01/25 10:58 AM |










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