論楽社ほっとニュース

京都・岩倉の論楽社からお届けします
<< 連載コラム「いまここを生きる」(第251回)下水道工事 | main | 学ぶ喜びを取り戻す――里さんの授業へ、ようこそ、ようこそ(その2) >>
連載コラム「いまここを生きる」(第252回)靖国思想(その1)

 為政者が不正に私腹を肥やす。特権者が理不尽に誰かをいたぶっている――。
 こんなことを知れば、誰だって、「えっ! なんということを」と思うはず。声を出し、為政者や特権者を追求するはずである。
 特権政治家の不正行為に対する怒りは志欲だ。仏教で言う三毒の怒りではない。方向性がある。いのちを壊さない。逆に大いなるいのちを育てる。
 隣国他国で同じような行為が為政者にあると、市民が声かけあって街へ出る。100万人もの街頭の抗議活動が行われる。
 日本ではそんなデモンストレーションはない。全くない。
 一揆や打ちこわし、倒幕と体を張っていた150年前までの日本人は完全に変化してしまっている。
 「なぜか?」と思いつづけている。
 言い方を少し変えてみよう。10年ほど前に「KY」という言葉が流布された。ご存知のように「空気が読めない」という意味の奇妙な略語。侮蔑語だ。ゆえにローマ字隠語なんだろう。
 いま私が問題とするのは、その「空気」だ。その「空気」を読みたい。
 日本列島を覆っているいまの「空気」のことである。
 その奇怪な「空気」の実相は何なのか。
 原因は何なのか。
 どこにあるのか。
 いくつかある。そのひとつが靖国思想だと思う。
 靖国って、こんな字を書いているけど、要するに「安国」だ。「日本国家よ安泰たれ」と祈る思想だ。国家神道という宗教と言っていい。日本列島に150年間漂う「空気」と言ってもよい。
 その「空気」を具体的に書いてみたい。何回かに分けて書きつづってみたい。
 明治以降の天皇制支配国家は宗教国家である。ご本尊は天皇である。儀礼装置として、靖国神社が代表。奇怪な復古神道をモデルに明治初年から創設建立した宗教施設だ。教育勅語が教義書だ。勅語を聖書のように扱う宗教だ。国家神道(国家がつくった神道)だ。
 宗教といっても、国家設計者たちは自覚的だったから、「超宗教」と明言した。宗教なんだけれども、各宗教の上位に位置する「スーパー宗教」。キリスト教、イスラム教という特定の宗教ではない宗教。日本人の多くが自らは「無宗教」と思い込んでいる。宗教とは思わせないほどに超越した宗教と言いかえてもいい。「空気」となった宗教なんだ。
 「超宗教」の「空気」だと思い知らされるために、まず廃仏毀釈(きしゃく)。徹底的に仏教を潰した。仏像を焼いた。
 神社合祀(ごうし)を徹底した。小さい神を壊滅させた。合併させた。鎮守の森を潰しつづけた(南方熊楠の深い戦いを思い出そう)。
 ちょっとズレるけど、神社合祀と同時に市町村合併を始めた。小さい村の、小さい神社を潰して、地名も変えていった。――つい最近の「平成の市町村合併」まで続く。行政は支配の効率化の効果を言う。ワシらにとってみれば、精神・心の空洞化としか言いようがない。
 廃仏毀釈と神社合祀までは、トイレの小さな神に花をたむけ、台所の火の小さい紙に手をあわせて、小さい神と一体となって、場所を清め、それが生活倫理ともなって、生きていた。せいぜい顔見知りの100人ぐらいのひとたちの小さな世界でいのちを育んできた。
 それが壊れていくのである。
 私が私でありえなくなっていく。
 自信が失われていった。私自身を失っていった(これって、実に大変なこと)。
 「二拝二拍手一拝」なんていう神社参拝形式もその当時の政府がつくったものでしかない。それまでは各人の自由な方法信心で祈っていた。
 それでもまだまだ頼るべき共同体の実態があった。村がまだ生きていたころまでは、なんとか心の安定が保てた。それが消えていった。
 幕末に来た欧米人たちの驚きの記録(『逝きし世の面影』)にある、安定したほほえみが消え去った。無表情に近い、新しい日本人が人為的につくられたのである。
 天皇制支配国家の原理は学校と軍隊によって日夜教導させられている(藤田省三センセを思い出そう)。ひとびとは歩きかた、話しかたまで変えていった。「ほほえみなんて軟弱」と思いはじめていった。
 村すら崩壊されはじめている1930年代(宮沢賢治は「村の消滅」を見つめている)。現代に通じる社会的孤立、そして不満不安、バラバラ感が発生。心が乾き切っている。何か月も雨の降らない森のよう。そこに火が付いた(つづく)。
(4月20日)

| 虫賀宗博 | いまここを生きる | 18:56 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









http://blog.rongakusha.com/trackback/878861
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< December 2017 >>

このページの先頭へ