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連載コラム「いまここを生きる」(第292回)ゴーバルへ

 まだ、治っていない。風邪をひいたまま、「新快速」に乗り、米原・名古屋で乗り換え、恵那へ向った。
 ハム・ソーセージをつくっている農業共同体「ゴーバル」に行くためである。
 伊吹山の雪をたっぷりと眺めながら、車中に在ると、なつかしい記憶がしきりに湧く。「昔、ホームスクールの卒業生たち4人と恵那山へ登った」「その前夜『ゴーバル』に泊めてもらい、当朝登山口まで送ってもらった。登頂し、『恵那山はえーな』なんて書いた布を持って記念写真を撮ったりして遊びすぎ、長野の昼神温泉の宿に着いたのがなんと夜8時に」――なんてことが想い出されてくる。
 共同体「ゴーバル」、は出会って28年になる。論楽社の動きを深い所で受け止めてもらっていると思う。
 その「ゴーバル」から、「1月17日に来て何か話をして」と声を掛けてもらったのである。
 以下、80分のスピーチの記録。
 風邪の頭に残った記憶の一部を書いてみる――。

 

――ここと同じ岐阜の、しかしもっと南西の川沿いの村に私は1955年に生まれました。実家は農家でした。小農で十分なのに「アメリカ型大規模農業を日本に求める奇怪な政策」「離農者を大都市の労働者に仕立てる政策」の全体によって村は崩壊してゆきました。村の良さを知っている、きっと最後の世代です。
――とくに高校からの数年間、苦しみました。学校から求められるのは立身出世。「そんなん、イヤ」「そうでない」と体全体が反発しました。もしも体内センサーの声に耳をかたむけていれば、学校なんか行かなかった。立身出世経済主義が国家全体の意思。国民感情の願い。それはますます強烈になり、水俣病だって生んでいきます。チッソが責任を認めないのは驚きました。オレたちひとりひとりが「ゆっくりと殺されている」と痛感したのでした。生老病殺の時代に生息しているのだ、という思いです。
――広島、水俣、四日市、大阪・釜ヶ崎へ行ってみました。不安いっぱいの、あてもない旅です。自らが出て行って人間に会う(これが出会うなんだ)ことをしないと「自分が劣化していく」「ダメな人間になっていく」と思ったりしていました。たとえ寺院や大学に籠もっても、何も迷いは解けない。逆に社会の中へ出ても(新聞記者になってみたものの)、迷いは深まるばかり。だから、「村を出る」は「村へ出る」なのかもしれないし、「家を出る」は「家へ出る」なのかもしれない。その二つは不二(ふに)なんだと思うようになりました。一隅を照らす「小さい場所をつくろう」と思うようになってきました。
――論楽社をつくるころ、金在述(キム・ジェースル)さんに会いました。国籍についてのある小さな会を企画していて、会いました。運命を感じました。「いま私が理事長している保育園は子どもが半分は日本人、半分は朝鮮人。いっしょに元気よく遊んで、差別はありません。20年たてば、私の肉体はこの世にないでしょう。しかし、その時、園児たちは一人前の青年に育っています。その時、町内会長(金さんは外国籍で全国で初めて町内会長に選出)が朝鮮人で、みんないっしょやったなあと思い出してくれる町にしたいと思っています。そんな故郷の風景を与えてやりたいと思います。20年後の日本人に私は希望を持っています」。最初の最初に、こんな話をしてくれた金さん。「全体では差別がまだまだある」「しかし、関与している部分には差別はない」「20年後、その部分は成長する、その成長部分を根拠にして、希望をもって生きぬく、人間は伸びなければならないのだから」というメッセージが聞こえてきます。「これや、これや」と思いました。探していたもの、見つけました。「いま全体は問うまい。いまここの部分(一隅)だけを見つめ、そこにだけ、そうして私の心にも種を蒔こう」と思い、論楽社を始めました(以下、長島愛生園の島田等さん、伊那教勝さんについて話したけど、略するね)。

 

 「ゴーバル」は標高650メートル。寒さが岩倉よりも厳しい。体は風邪を引き直した感じになった。心はよりいっそう解き放たれ、より自由になった。受けとめてもらった。小さな旅に出て、今回もよかった。
(1月25日)

 

| 虫賀宗博 | いまここを生きる | 09:27 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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