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連載コラム「いまここを生きる」(第314回)直訴(その1)

 薄くて小さい本を読んだ。
 本屋の片隅にあるのを、見付けたので。キラリと光るのを感じたので。
 鉄筆編『日本国憲法――9条に込められた魂』(鉄筆文庫、2016年、本体価格500円、以下本書とする)だ。
 「鉄筆」なんて、実におもしろいではないか。
 幣原(しではら)喜重郎元首相のある秘密の行動が小冊子のテーマ。
 幣原元首相は、戦前に4回外務大臣をやり、国際協調、軍縮平和、共存共栄などの幣原外交を展開。軍部が台頭しはじめると、「軟弱外交」「腰抜け外交」と邪険にされるようになり、退陣。
 敗戦後、昭和天皇の命により、1945年10月に首相に就任。
 新憲法の制定に携わる。
 幣原元首相がかかわった新憲法の9条のことをいま書かねばならない。
 私がいままで書いてきたことを訂正しなければならないことを知ったのである。
 もちろん基本的には米軍・米国がすべての実権を握っており、日本国憲法の制定権も持っていたことは間違いない。天皇制保持も米国の方針。米軍にとって、都合がよかったからである。そういう訂正は必要ない。
 今回、この鉄筆文庫によって、幣原元首相がマッカーサー司令官と秘密裏に会談し、9条のことを提案していたことを知ったのである。マッカーサーへの直訴だったのである。
 その会談がどんな感じだったか。
 幣原元首相へのインタヴューが残されている(1964年2月の憲法調査会事務局が文字化し、それが残されていたのである;インタヴュー自体は1951年2月、10日ほどして幣原元首相は死去、ゆえにこのインタヴューが遺言だった)。ごく短く、記す。

 

 「原子爆弾が登場した以上、次の戦争が何を意味するか、各国とも分るから、軍縮交渉は行われるであろう。」
 「軍縮交渉とは形を変えた戦争である。」(本書P.135)
 「要するに軍縮は不可能である。」(同P.136)
 では、どうするのか。
 敗戦国日本からまず非武装宣言するのである。
 「全く狂気の沙汰である。だが今では正気の沙汰とは何かということである。武装宣言が正気の沙汰か(略)。要するに世界は今一人の狂人を必要としているということである。」(同P.138)
 侵略があったらどうするのか。
 「要するにこれからは世界的視野に立った外交の力に依て我国の安全を護るべきで、だからこそ死中に活があるという訳だ。」(同P.140)
 多くの日本人はマッカーサーの命令で9条が生成したと思っている。
 「僕には天皇制を維持するという重大な使命があった。元来、第九条のようなことを日本側から言いだすようなことは出来るものではない。まして天皇の問題に至っては尚更である。この二つは密接にからみ合っていた。」(同P.141)
 「憲法は押しつけられたという形をとった訳であるが、当時の実情としてそういう形でなかったら実際に出来ることではなかった(略)。一歩誤れば首相自らが国体と祖国の命運を売り渡す国賊行為の汚名を覚悟しなければならぬ。」(同P.143)
 「たとえ象徴とは言え、天皇と元帥が一致しなかったら天皇制は存続しなかったろう(略)。このいきさつは僕の胸の中だけに留めておかねばならないことだから、その積りでいてくれ給え。」(同P.148)

 

 以上である。
 マッカーサーは日本軍の武装解除は考えていた。しかし、マッカーサーは軍人である。軍人は非軍の発想ができないゆえ、日本人の元首相の入知恵によって、9条のような決断をしたんだ。かつ、天皇の戦争責任を問う国々(ソ連、オーストラリア、ニュージーランドなど)があり、天皇制存続を言うためには、それ相応のカードを新たに切らねばならなかった。そのときに運よく幣原直訴があった。「渡りに舟」だったに違いない。
 1946年当時は日本軍部はすさまじい勢力をまだ残していた。押し切るには、天皇の上位に座するマッカーサー将軍(征夷大将軍)の力を借りる以外になかったんだろう。
 でも、腑に落ちない。幣原元首相という重臣の秘密交渉で生まれたとは、納得ができない。
 ある程度公開し、議論をしていかないと、一般庶民国民の政治力がつかないではないか。外交力を発揮する基礎力が付かないではないか。近隣諸国に9条の精神が広がらないのではないのか。「押し付け憲法」論のプロパガンダを蔓延させてしまったのではないか。
 重臣の力によって、9条が始まっていたとは。
(6月28日)

| 虫賀宗博 | いまここを生きる | 17:58 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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