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連載コラム「いまここを生きる」(第318回)気高いひと

 金子文子(1903〜26)について、ほんの少し書く(本稿はすべて敬称を略するね)。
 獄中手記の自伝『何が私をこうさせたのか』(岩波文庫、2017年12月、以下は本書とする)を読んだので。
 なんという明晰で透明な心の自伝だ。なんていう最良の精神の記録だ。
 鶴見俊輔の『ひとが生まれる』(ちくま文庫)によって、金子文子の存在を知って以来40年もの時を経て、やっと、本書をいまここで読了することができた。
 いま、「ありがとう」と思う。本書を文庫にしてくれた編集者にもアリガトー、何よりも無戸籍、虐待、貧困という凄まじい逆境を生き、自分自身のいのちを守り育てた金子文子にも、アリガトウと心の奥から言いたい。
 1923年の関東大震災の直後のこと。金子文子はまだ20歳のとき。
 朝鮮人の同志+恋人の朴烈(パク・ヨル)とともに逮捕検束される。
 金子と朴の思想が大逆罪とされるんだ。
 2人の頭の中の考えていることが権力によって裁かれるのである(共謀罪といっしょ)。具体的な実行行為ではなく。恐ろしいことだ。
 しかし、当時の日本で2人の逮捕に抗議したという記録はない。
 2人とも死刑判決を受け、その直後に恩赦に浴することになってしまう。何もやってないのに一旦死刑にされ、しかも今度は「赦してやる」と無期懲役に罪一等下げられる。
 金子は恩赦状をビリビリと破って捨ててしまう。そうして、獄中で自死。1926年7月23日のこと。92年前のきょうだ。わずかに23年の生ききった人生。
 朴のほうは受け取り、1945年の敗戦まで獄におり、最後は北朝鮮で1974年に74歳で死去している。
 朴の兄がなんと金子文子の遺骨を韓国に持ち帰り、聞慶(ムンギョン)という地に埋葬。植民地時代から守り通し、いまなお墓所を訪れるひとは後をたたない、と聞く。こんな日本人、他にいない。
 金子文子の両親は婚姻届を出しておらず、文子の出生届すら出していなかった。ずっと無籍者のため、学齢期になっても小学校にも行けなかった。父は「のむ、うつ、かう」のひとで母の妹(叔母)にも手をつけ、結局、夫婦は破綻。こういう両親に非難がましいことを一行も文子は書かなかった。精神の深いひと。
 文子は母の実家へ戻されたりした後、朝鮮の父方の祖母の所へ9歳のとき行く。ここが酷い。7年間、虐待につぐ虐待。いじめに、せっかん。
 韓国併合の2年後のこと。「土地調査事業」を始め、どんどん土地を日本が奪っていった(朝鮮人に向かって「おまえの土地であることを申告せよ」と日本語で発布し、日本語で書類を提出させたんだ、当時の朝鮮人のどれだけが日本語で読み書きできたと言うのか、当時の日本人はシラフで朝鮮へ渡れなかった、蔑視感をもってしか行けなかったんだ、そのことを忘れないで)。
 祖母は日本国が奪った土地を取得し、高利貸しをしていた。
 家父長制の父も酷い。家父長制の実権者に植民地者の祖母もこれ以上に酷い。祖母の蔑視感、非情そのもの。
 金子文子、決意。ところが入水自死直前にアブラゼミが鳴き、翻意。
 「何と美しい自然であろう」(本書P.171)。
 いのちの声だ。表層はさまざまなことがある。凄まじい執着がある。でも、深層のいのちまで下りていけば、「世界はなんて美しい」という声がするんだ。ここでも祖母への非難がましいこと、一切書かない。
 この声を胸に東京へ出る。あこがれていた学校へ行くけど、何かが違う。
 成功(立身出世)したいんじゃない。そうじゃない。偉いひとに成り上がりたいんじゃない。
 キリスト教も違う。社会主義も違う。革命も違う。
「人々から偉いといわれることに何の値打ちがあろう。私は人のために生きているのではない。私は私自身の仕事をしなければならぬ。そうだ、私自身の仕事をだ」(本書P.388)。
 その仕事って、親問題を生きるということだ。
 差別搾取のない、気の合った対等な仲間とともに私の親問題を生きぬくということだ。
 金子自身と同じように無籍者を生きぬいている朝鮮人とともに生きることによって、日本国家を見つめる。天皇制に対して負けず無籍者としての自分を見つめていく道を見つけた。20歳の文子。学校で学んだんじゃない。本で学んだんじゃない。自らの生を通じて、悟った。
 その直後に逮捕される。
 文子のように、もっとも深いいのちから発する力でなければ、ワシらの文明が抱えている問題に対処することができない。そう思う。
(7月26日)

| 虫賀宗博 | いまここを生きる | 09:35 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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