論楽社ほっとニュース

京都・岩倉の論楽社からお届けします
<< 連載コラム「いまここを生きる」(第319回)いのちを恋う | main | 連載コラム「いまここを生きる」(第321回)独裁を倒すために >>
連載コラム「いまここを生きる」(第320回)品川正治さん

 品川正治(まさじ)さんの『戦後歴程――平和憲法を持つ国の経済人として』(岩波書店、2013年、以下本書とする)。
 こんなひとがいたんだ。
 平和の道が少し太くなった気がする。
 品川さん(1924〜2013)。5年前に89歳でなくなっている。
 日本火災海上保険の社長。経済同友会の専務理事。
 なのに、9条を体を張って守ろうとしていたひと。
 接続詞「なのに」を私は付けてしまう。
 私には縁なく、産業実業界を具体的に全く知らない。財界、1パーセントの悪の巣窟――という思いでしかない。
 品川さんのようなまっすぐなひとが、現体制の真ん中でまっすぐ、まっすぐ生きぬいた自伝。それが本書。
 具体的な事実だけをまっすぐ伝える本書は、「9条を死守せずに何を守るか、もうひとつのありうべき日本をつくれ」という思いを具体的に伝える遺言書でもある。そう読んだ。
 品川さん、旧制三高時代から本書を始める。友人が軍人たちの前で非戦言動するんだ。その友人は自死する。品川さん、生徒総代として責を負って、学園を離れ、自ら陸軍に志願。二等兵だ。
 中国での戦場の体験。でも「どこでどう重傷を負ったのか、私は語ることができなかった。私の名前を連呼しながら死んでいった戦友のことを思うと、それ以上は話せなかった」(本書P.2)。
 なんという筋の通った生きかた。なんというフェアさ。
 中国での抑留の後、復員船の中で日本国憲法の草案を伝える新聞を手にする。9条だ。
 「読み終わると、全員が泣いた。私も泣いていた。(略)これなら亡くなった戦友も浮かばれるに違いない。私は、読みながら、突き上げるような感動に震えた」(本書P.17)。
 この感動を体に保って、組合活動、管理職、社長になっても、つねに平和が意識されている。損保会社の役割はセーフティネット。それに徹する。儲けのための儲けを戒し、政治献金も出さない。「沖縄のひとびとが日本でいちばん幸せにならなければならない」との思いを以て体制内で動く。それぞれ「現実から逃避せず、また現実への逃避もしない」(本書P.178)姿として、腑に落ちる。敬意を持つ。
 いま、米国は歪な戦時体制の国家。「歪んだ資本主義にとっては、歪んだ民主主義が使いやすいのである」(本書P.179)。その米国に日本は支配されていて、ともに1パーセントがすべてを牛耳っている。日米とも民主主義が歪められている。
 そうだけど、日米の1パーセントにやられるがままに止(とど)まっている訳にいかない。絶対的権力はつねに絶対的に腐敗し、敗北する。
 9条死守は少数派のイデオロギー、宗教なんかでない。平和は現実在の泉。品川さんの生涯を見ればわかるが、人間の普通へ通じる道なんだ。真(まこと)の常識を育てる道だ。
 それを以て、「日本は米国の植民地でよいのか」と言いつづければよい。
 その声は、日本の保守常識のひとびとの心を耕す。
 まともな政治経済外交の道がちゃんといまもまだ日本に残されていることを、本書は教えてくれた。
 歩んでいこう、悲観せずに。
(8月9日)

| 虫賀宗博 | いまここを生きる | 09:41 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









http://blog.rongakusha.com/trackback/878982
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< December 2018 >>

このページの先頭へ