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連載コラム「いまここを生きる」(第323回)劣化の理由

 「頭がいい」って、よく日常会話で使われるけど、一体何なのか、少し考えてみよう。
 「学校の成績がいい」と同意義で使われる。でも、よく考えると、「頭が器用だ」と言い変えたほうがいい。
 音楽だったら、メロディをすぐ覚えて楽器を弾く。場の空気を読んで教師が求める“正解”をパアッと言い当てる――。これらは「メンテナンスの行き届いた機械のように器用な頭だ」と表現したほうがいい気がする。どうであろうか。
 もちろん、頭が器用なほうが、現世は便利。テストの点数だってとれるし、資格試験だって、大丈夫。とにかく便利だね。効率がいいね。
 ところが、器用貧乏――という裏面もある。10代が器用だからと言って、すぐれた学者や小説家、芸術家に20代以降になれるというわけでも全くなし。
 頭が器用な子が何かにのめり込んで熱をあげると、それは学校とは無関係なことなので、成績は全く上がらんという例は山ほどある。逆に大器晩成というケースもあり。
 だから私見では「入試科目を100〜200教科から5つ選択」ということを30年前から提案している。世のさまざまな学問教科の中から5つだけ選択するんだ。料理、園芸、服飾、大工工作などの生きるための技術は入試科目としても最適だと思っている。高校入試からでも採用して。世界史なんて広大すぎるから、中国史、インド史、米国史……とかに、なんで分別しないのであろうか。中学生の理科だって、天文、生物、古生物、地質、化学、物理……と分科すべき。
 「頭が強い」というのもたしかにある。フリードリックスという数学者が「国際的に鈍いので有名」(森毅+論楽社『ゆかいな参考書』径書房、1985年――なつかしいなあ)。彼はいろいろ説明しても鈍い。わからない。「耄碌したか」と思っていたら、3年くらいして表層だけではなく、本質を理解している。わかりかたにコクがあるんだ。
 職人に必要なのは、運・鈍・根(と言う)。鈍が入っているのは、「頭の強い」ひとがどんな場にも必要であったからだ。
 わからんことを器用にわかったことにせず、何十年も蓄えていく「強さ」は必要。親問題に立ち向かうには、そういう「強さ」が大切。
 じゃあ、最初の問いに戻し、「頭がいい」って、一体何か。私にはいまのところ、「物事を大きくつかみとり、縁あって出会ったひとびとのしあわせのために行動できる」ことやと思う。ブッダ、老子、田中正造、中村哲というひとのことだ。
 あまり言わないようにしているけど、言っちゃうね。岸や吉田の三代目の頭では、どうにもこうにもいまの問題に立ち向かえようがないのではないか。
 たとえば、高杉晋作。物事を大きくつかみとる能力があった。英国との戦争に長州は負けた。英国は「島をひとつ貸してもらえないか」と高杉に言ってきた。高杉は中国でアヘン戦争の後、どうなったかを見て来た。「土地を貸したらどうなるか」、わかっていた。「大きく本質をつかみとる」とはこういうこと。ちゃんと断わっている。
 昭和天皇は沖縄を戦後米国に「貸す」と言った。いったん米軍に基地を貸したらどうなるのか、全くわからないんだ。高杉や坂本龍馬はどう言うだろうか。
 ゴーバルというアジア生活農場が岐阜の恵那の山中にある(http://gobar.jp/)。そのゴーバルの通信『Cobarだより2018夏』に石原潔さん(きよじい、ゴーバル代表)がエッセイを書いている。心に沁みた。
 ゴーバルの38年の歩みを振り返って、「人には言えない失敗だらけの38年だった」「現実的な解決策の無いことが多かった」「委ねて、今を味わう」「『恵み』が与えられた」と石原さんは書く。心を打つ。
 ひととひとが出会って共感するという幸せがその恵み。こういう実感が湧くひとこそが私の言う「頭のいい」ひとだ。
 石原さんは「違う」って言うのだろうけど。
 日本社会。異様なほどに「頭の器用なひと」ばかりを重用している。現世的成功だけを求め、いろんなひとが百花繚乱してこその社会なのに「頭の強いひと」「頭のいいひと」をあえて無視している。社会が全体とし劣化衰退していくのは自明の気がする。現首相は劣化社会の象徴だ。
(8月30日)

 

| 虫賀宗博 | いまここを生きる | 10:29 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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