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連載コラム「いまここを生きる」(第327回)供養

 透明な秋がやってきている。
 気温が20度を切りはじめる。すると掛け布団が必要になるし、ヒガンバナの開花のスウィッチが入っていく。いまここで盛んにヒガンバナが朱の花を咲かせている。
 9年前の9月にタイへ行った。スカトー森林寺へ瞑想(入門)に行った。その寺の開かれた門の前に広がっていく赤い土と青い空を、思い出す。雨季の夏がまだ残っていたけど、乾季の秋がしずかにやってきている。そんないま。湿気から解放されれる喜びがどの生命体にも訪れる。そんなタイの透明な9月——。
 あの旅の心地よい思いの多くは、豊かとは言えないターマファイワン村の力による。スカトー森林寺を支えている村だ。その文化力の魅力を思う。
 文化力って、フラットな表現すぎる。村のひとびとが持つ、死と生への目線(めせん)の深さの総合力と言いかえよう。どういうことか。
 村びとは托鉢(たくはつ)する僧侶たち(サンガ)に喜捨をする。朝炊いた御飯をまず仏飯(ぶっぱん)としてサンガに布施する。お供えする。
 生きていく幸せの基準・根幹が、ひとに与える喜び。それは揺るがない。
 森林寺に滞在中、(私たちの仏教風土の中にもある)施餓鬼(せがき)の供養があった。
 (仏教で言う)餓鬼道へ行った死者たち。路上で倒れ無縁仏になったひとたち。その死者たちに、心を込め、喜捨する集い。
 どこか祭りのような日。いつもと違い、托鉢はなく、逆に村びとが少し着飾って、森林寺へ参り、みんなで祈り、食する日。
 みんな、信じ切っている——。
 喜捨をすれば、良い報いがある、と。
 より良い報いは私自身だけではなく、いまこここを生きているすべてのひとびとに(施餓鬼の日は特別にすべての死者たちに)、すべての生きとし生けるものに(村にはたくさんのニワトリ、牛が飼われていた)分かち与えられていく、と。
 そう祈りの言葉で、村びとが発語すると、同じ村びとがみんな、低い声で「受けとった」「受けとった」と返すんだ。
 その声。大地の声のよう。地球宇宙の声のようだ。
 これらはすべて日常の所作(しょさ)。
 その所作を2000年やりつづけている。
 もの言わぬいのち(死者、動物・植物・きのこ)と分かちあい(シェアリング)しつづけている。
 (メラネシアなど太平洋の島々では)誰かに喜捨(ふつうには贈与)しないでいると、自らの霊(のようなもの)、魂の力、富が沈滞してしまう。腐ってしまう。そう考えられていて、与えることによって、その力(マナ、パワー)が広がり、社会全体に恵みが満ち、自然の生産力が生成される——と考えられていた。
 もともと富の源泉は、すべて自然の贈りもの。植物が光合成したものをプレゼントしたことに由来している。私有し、独占するものでは決してない。
 生命力の基本を示現してくれたので、ターマファイワン村のひとたちのことが、忘れられない。
 とりいしん平さんに教えられて、長谷川義史さんの絵本『てんごくのおとうちゃん』(講談社、2008年)をやっと読んだ。
 おとうちゃんと死別してしまったぼく。さみしい。つらい。
 しかし、「ぼくは『かわいそうに』とひとにいわれるたびにおもうねん。ぼくより おとうちゃんがかわいそうなんとちゃうやろかって」。
 「このまえぼくはまんびきしそうになりました。でもやめときました。わるいことしてじごくにおとされて おとうちゃんにあえなくなったら あかんから」。
 全文が、おとうちゃんへの手紙文。心を込めた言葉によって、供養。
 死者を思い、つながることによって、生きることが律されている。「いまだけ、金だけ、私だけ」の世界観では生まれえない豊かさがある。
 しかし、「ごくらく」ではなく、「てんごく」。死後の輪廻(りんね)の存在は漠然とあるけど、それは「てんごく」に変化(げ)している。日本の現在(いま)を表出しているんだ。死後の世界が信じ切れなくなってきている。あいまいに推移。
 それでもなお、死んだおとうちゃんはぼくの心で生きており、生の倫理になっている。死んでいったひとたちの祈りによって、生かされていることに、気づく。
(9月27日)

| 虫賀宗博 | いまここを生きる | 10:57 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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