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連載コラム「いまここを生きる」(第341回)ワタナベさん

 2019年明けまして、おめでとうございます。
 新しい年の、新しい日の朝の、光の湧き水を汲んで味わっておられると思います。
 私も明子も同じように、いまここの水をいただいています。うれしく、ありがたいことに思います。
 「あとどれだけ続けられるか」。そう思いながらも、前へ歩み出してます。本年も本コラムもよろしゅうお願いいたします。

虫賀宗博

 

 さて、1冊の絵本から2019年を始める。
 北村直子さんの『ワタナベさん』(偕成社、2018年)である。おもしろい絵本なのだ。
 主人公はワタナベさん。といっても渡辺さんというようなひとじゃない。
 なんとナベ(鍋)なんである。
 「さむいひ えいぎょう」とひら仮名で書いた看板を出すだけの下町の家庭料理屋。
 毛糸のマフラーしたお母ちゃんが「やってるー?」と訪ねてくる。
 「いらっしゃいませ、きょうもさむいですね」とナベちゃんが答える。
 引き戸を開けると、土間が広がる。セメントで固めた叩(たた)きが奥へ伸びる。大根、白菜、にんじんがきちんと置かれている。ゲタも揃えてある。清潔に満ちている。どうもナベちゃんは几帳面な鍋らしい。
 「もつなべ」「ゆどうふ」「キムチなべ」「みずたき」とメニューが(きっと)白墨で書かれ、真ん中に「わたなべ」とある。「えっ!?」と思うけど、スペシャルな手作りぎょうざを入れたような、あったかいオリジナルな鍋なんだろう。きっとね。
 「なににしようかね」とお母ちゃん。
 「きょうはおでんがおすすめですよ」とナベちゃん。
 「じゃあ、おでん4にんまえ もらう」とお母ちゃん。
 「しょうしょうおまちください」と言って、おでんの食材を次々に入れ、火が付き、顔を真っ赤にし、煮込み始める。まんまるの目をし、ヘの字の口で、顔を真っ赤にしている。いい顔(図書館で見てね)。
 「すぐにいいにおいがしてきました」。
 「『おまたせしました!』とあたまのふたが パッとひらいて おいしそうな おでんのできあがり」。
 下町の人気店。「ワタナベさんは なべひとつで りょうりをつくる めいじんです」。
 お客さんの長い列ができている。
 ある少年が来る。「ナポリタン 3にんまえ ください」と注文。
 やったことがないので「うーん」とナベちゃん。
 困って、悩む。とにかく、えいっと始める。
 ソーセージ、ピーマン、たまねぎ、マッシュルーム、ケチャップ、にんにく、コンソメに水を入れ、途中でスパゲッティを半分に折って入れる。「ほんとうにできるかな」と少年は呟く。
 グツグツ煮込んで、ハイ。
 「『おまたせしました!』あたまのふたがパッとひらきました」。
 おいしそう。パスタがトマト味のスープの中にゆらゆら。
 「くらいから きをつけてくださいね」と少年を送り出す。ネコもしずかに見送る——。
 以上だ。
 シンプル(素のまま)で、アットウォーミング(あったかーい)。
 日本の伝統食以外に、カレー、シチュー、ポトフ、ボルシチ、ロールキャベツに、中華鍋。そうしてナポリタン。食は開かれている。食は天。自閉的でない。
 平凡な恵みをすぐれて活用して、知恵深く、あたたかく手料理。いまここを活かし切っての、うまいもん。
 2019年も1日いちにちを煮込んでいこう。ワタナベ君のように。
(1月3日)

| 虫賀宗博 | いまここを生きる | 09:54 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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