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連載コラム「いまここを生きる」(第345回)むのたけじ――あちこちで発芽

 むのたけじ(1915〜2016、以下、敬意をもって、むのさんとする)というジャーナリストがいた。
 むのさんに1通だけ、手紙をもらったことがある。
 探していたその手紙がこの前、やっと出てきた。
 日付は1989年5月9日、便せんに1行おきに大きな字で書かれている。
 「あなた方のご努力が実を結んで、本当によかったです。結ばれた実は、きっとあちこちで発芽します。(略)あなた方の一層のご活動を祈ります。小生もむろん我が道を歩み続けます。」
 1989年2月に「岡村昭彦展——俺のバトンを君よ受けとれ」を京都高島屋で岡部伊都子さんたちとともに開いた。
 その事務局を私が担っていて、むのさんに手紙を書き、前夜祭として講演会を企画。むのさんは岡村昭彦さんと共著『1968年——歩み出すための素材』(三省堂新書、どこからか復刊してもらえないかな)を出しているから。
 むのさん、当時74歳。すこぶる元気。声も太い。大きい。岡村さんとは「1分1秒を惜しんで語りつづけた」とむのさん、語っていたかな。「1分1秒を惜しんで語りあう」って、スゴイと思ったのを、忘れられない。
 その岡村展が終わって、事務局を解散。まとめの通信を出し、むのさんに送った。その返事がさきほどの手紙であった。「あちこちで発芽します」は忘れられない。
 むのさんは生涯ジャーナリストであった。
 しかも、野生の、大地に根を張った、独立したジャーナリストだった。
 むのさんは朝日新聞記者であった。アジア太平洋戦争中、中国や東南アジアの特派員として「負け戦を勝ち戦とだまして報道してきた」と1945年8月15日に退社。日本中に何万人もいた新聞記者たちの中で、戦争責任をとって8月15日に退社したのは、むのさんだけ。
 「1人だけはいた」ということ、覚えておこう。
 「『神風』も『万世一系』も『無敵皇軍』も一切ご利益を失った無条件降伏の廃虚に、日本の民衆は蜂起するかもしれない。そしたら、その中にとびこもう。もしそれがおこらなければ(そういう感じもした)連合軍の日本占領は急速できびしく、当然のこと中国政府は『日本人が中国でこわしたものは日本人がなおせ』と要求するだろう。そうしたら、進んでクーリー(苦力)になって中国へ行こう。日本が再び生命をふき返す道は、ひとりひとりの国民がそういう道をくぐりぬけていくかなたにしか考えられなかった」(『雪と足と』文芸春秋新社、1964年刊、45年前に古本屋で買った、大切な本だ)。
 クーリーになって、中国へ行こうと考えたひとも、あるいはむのさんだけかもしれない。
 民衆は現実には蜂起せず、米軍に靡(なび)いて、マッカーサーを「救い主」と思って、手紙を出していた。軍や政治の最高責任者の昭和天皇が真っ先に靡いて、頭を下げ、保身。結局のところ、誰も戦争責任をとらなかった。7人が絞首刑になったが、そのほとんどが自らに「戦争責任はない」と明言していた。天皇制の上位に米国・米軍を冠する現体制が動き出していったのである。当時は朝鮮も中国も戦争や植民地支配によって疲弊していたので、米軍の威光をバックに日本は戦争責任をとらずに、やりすごしたのである。
 「ぼくは、むしろ、戦争のあんなやめ方に強く反発した。あれじゃ戦争の原因となったものは少しも解決されないから、死んだ人たちは浮かばれないし、また戦争がはじまるだろう。いや、第二次大戦の終わった日が第三次大戦のはじまりだ」(『たいまつ十六年』理論社、後に現代教養文庫になり、現在は岩波現代文庫、これは名著だ)。
 むのさん、1948年から78年までの30年間、秋田県横手市の故郷で週刊新聞『たいまつ』を出しつづけた。
 「ウソをウソと言い、ホントをホントに言えるコトバの真実を求めて」、創刊。「大衆の声・たいまつ」「ボスの敵・たいまつ」「新時代の羅針盤・たいまつ」と手製のポスターを街の電柱に貼り、一軒一軒を回り、一部一部を売っていった。30年間もつづけたんだ。
 そのむのさんの歩いた後姿に戦後民主主義は実在している。
 私の心を深く耕してくれた。論楽社をつくりつづけていこうという思いは、むのさんによって与えられていたかもしれない。
 「希望を希望するなら、絶望に絶望せよ」「寒かったら、自分でマキを割ろう。二重にあたたかくなる」「烈火は消えやすく、埋火(うずみび)は冷えにくい」。
 『たいまつ』の巻頭のコトバだ。
 むのさんが点けた炎はまだ消えない。発芽している。
(1月31日)

| 虫賀宗博 | いまここを生きる | 06:21 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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