ホームスクール(家庭学校)のことを少しだけ書いてみたい。
あるひとりの参加者について、である。
仮にAさんとする。いまは大学生だ。
Aさん、学校に長くいかなかった。
小、中学と行かなかった。
Aさんの母が「高速道路を走らなくていい、野の道を草花を眺めながら、ゆっくり歩けばいい」とAさんに語りかけた。
なんという賢者か。
Aさん、どれほどに救われたことか。
縁あって、Aさん、高校1年の春から論楽社ホームスクールに来た。週に1回、数学(とその他古文、日本史などを少し)を手助けすることになった。
Aさんの歩みについて私は何も知らずに、学びを始めた。ただ単純な割り算ひとつをおもしろい、オリジナルな方法でするので、「独学してきたの?」と聞いてみた。
自然と少しずつ対話をするようになっていった。
「学校へ行かないとこの世、不便なこと、不利益なことが生じるけど、その分、自分の頭で考えるようになるから、いいんだ」と私は即座にAさんへ言った。
「地(じ)頭が強くなる」という言葉を伝えたと思う。「大地、いのちの思考力——が育つから、いいよ。それが育てば、一生もんだよ」と言ったと思う。
私はおしゃべりだから、いろんなことを週1回の授業でしゃべった。生きていくためのヒントになればいいと思って。
AさんはAさんで、「なんで再稼働するの? どうして原発を止められないんだろうか」と言い始めていた。
そうして、Aさん、大学1年生になる。
そのとき、「大学に入っても引き続き、週1回授業してほしい」「テーマは、私、妖怪や精霊が好きなので、そういうこと、学びたい」と言われた。
相談した結果、「小さな神たちの死」とあいなった。
シナリオもなく、直観のままに、授業を始め、アッという間に3年が過ぎた。
取り上げた本を列記してみる。本を中心に置いて、学びあうのだが、話は自在に飛んでいき、90分はすぐに過ぎてしまう。
私自身がAさんの発案によって。育っていった授業だった。
A. 金関寿夫『アメリカ・インディアンの詩』中公新書
B. 町田宗鳳『「グレート・スピリットの」教え——先住民族に伝わる賢者たちの言葉』佼成出版社
C. 渡辺京二『逝(ゆ)きし世の面影(おもかげ)」平凡社ライブラリー
D. ナンシー・ウッド『今日は死ぬにはもってこいの日 Many Winters』金関寿夫(訳)、めるくまーる
E. 秋野亥左牟(文・絵)『イサム・オン・ザ・ロード』梨の木舎
F. 星川淳『魂の民主主義——北米先住民・アメリカ建国・日本国憲法』築地書館
G. ジョエル・アンドレアス『戦争中毒 アメリカが軍国主義を脱け出せない本当の理由』合同出版(マンガ)
H. 緒方正人『常世の舟を漕ぎて 水俣病私史』世織書房
H'. 親鸞+唯円『歎異抄』岩波文庫
I. 松下竜一『いのちき してます』三一書房
I'. ウィリアム・モリス『民衆の芸術』岩波文庫
J. 阿波根(あわごん)昌鴻『命こそ宝 沖縄反戦の心』岩波新書
K. 『神々の母に捧げる詩——アメリカ・インディアンの詩』秋野亥左牟(絵)、福音館書店(絵本)
L. 松井友(文)ボン・ペレス(絵)『サンパギータのくびかざり』今人舎(絵本)
M. 近藤宏一『闇を光に——ハンセン病を生きて』みすず書房
N. 島田等『次の冬』論楽社ブックレット
O. 宇沢弘文・内橋克人『始まっている未来 新しい経済は可能か』岩波書店
O'. スーザン・ジョージ『金持ちが確実に世界を支配する方法 1%による1%のための勝利戦略』岩波書店
P. 高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』朝日新書
Q. ヨハン・ガルトゥング『日本人のための平和論』ダイヤモンド社
R. 鶴見俊輔『教育 再定義の試み』岩波書店
R'. 鶴見俊輔『竹内好 ある方法の伝記』リブロポート
S. ヨーラン・スバネリッド『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む』新評論
T. 井上ひさし『ボローニャ紀行』文春文庫
U. ジーン・シャープ『独裁体制から民主主義へ』ちくま学芸文庫
V. 中島岳志『ガンディーからの〈問い〉』NHK出版
W. ダグラス・ラミス『ガンジーの危険な平和憲法案』集英社新書
現在VとWのガンジーをともに呼んでおり、まとめに入っている。
小さい神々はずいぶん殺された。けれども、死にきっていない。地頭(じあたま)の思考がまだいっぱい残っている。そう思って、授業している。
(2月7日)