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連載コラム「いまここを生きる」(第363回)前へ前へ――『March』によって

 論楽社の隣の隣の200年のケヤキのすべてが、ついに切り倒された。先月末(5月31日)のことだ。
 32年前には、まだ12〜3本の生きた並木だった。どこか旧岩倉村のシンボルであるかのような風情の、小さな森だった。
 アオバズクを初めとした鳥や小動物がいっぱい居た。蝶もトンボも居たな。
 近辺のひとびとの心も、近所の2つの精神病院のひとびとの魂もどれだけ安らかにしたことか。毎日毎日どれだけの清澄な気を放っていたことか。
 10年前に隣が半分の並木森を切断。隣は庭じゅうに除草剤を蒔くようになり、田んぼを売って、マンションを建てている。
 隣の隣も、残りの半分を切断。
 理由は相続税対策たかいろいろ考えられるけど、要するに邪魔になったんだ。樹木に神性、神聖をすでに感じなくなっている。
 そうして、ふつうの住宅地になっていく。次第にひとという存在にも神性、神聖を感じなくなり、単に規格品の人材しかいなくなる町になっていくんだ。澱んでいって、沈んで、荒れていく——。
 チェーンソーの音がいまもなお鳴り響いている。
 規模は違うけど、生きたサンゴ礁の大浦湾(辺野古)へ土砂をどんどん投下する音をいま想像する。
 忍辱(にんにく)する以外にないのか。
 うーん。
 気分を変えたい。
 マンガを読もうか。
 『March』1〜3巻(岩波書店、2018年5月)である。
 主人公はジョン・ルイス。現米国下院議員。原作者のひとりであり、自伝的な要素を入れながら、「長い、長い公民権運動」をマンガで表出しようとしている力作である。
 私は知らなかった。南北戦争後の奴隷解放令で黒人たちはいった得た選挙権も、すべての諸権利もすべて剥奪(はくだつ)されていたんだね。
 生まれる病院も、住む住居地区も、乗るバスも列車も、使える店もトイレも、墓地さえもすべて黒人だけが分離差別されていたんだ。
 「分離されていても平等」と連邦最高裁判決もあって、アパルトヘイトが合憲だったんだ。
 白人たちが勝手につくりあげた差別ルールに、もしも逆らったら、殺されるんだ。
 100年にも及ぶ無権利状態の中から、少しずつ少しずつ芽が出てくる。
 1955年の、私が生まれたころから、バスの中で「なんでオレたちだけが『黒人用は向うだ、あっちへ行け』」って言われなきゃいけないんだ。同じ人間で、同じ料金払っているのに。
 そう思うひとがひとり、ふたりと生まれてきたのだ。芽が生えてきたんだ。
 バス・ボイコット。
 ランチ・カウンター(黒人にハンバーガーを出さない店のカウンターに座りつづける)運動。
 フリーダム・ライド(長距離バスに乗ってナッシュビルからバーミングハムまで行く)。
 たとえば、それだけでもすさまじく残忍な暴行、放火、殺人を黒人たちは受けなきゃならない。
 M・ガンジーの実践のままに、非暴力(不殺生)不服従抵抗を繰り返していく。精神を前へ前へと押し上げていく。
 恐怖も悩みも、正確にマンガは表出している。
 とってもおもしろい。
 詳しくは、『March』を実際に手にしてほしいと思うけど、読了するころには、あのチェーンソーの音が消えていた。
 切断されても、種子を飛ばし、生きぬいてきた。
 表層はもういい。大切なのは原生命。いのち、いのちだ。
 私にも芽が出る気になっていった。
 ありがとう、『March』。ありがとう、200年のケヤキの森。
(6月6日)

 

| 虫賀宗博 | いまここを生きる | 07:21 | comments(0) | trackbacks(0) | - | -









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