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連載コラム「いまここを味わう」(第34回)ひとりひとりの力

 ある大阪の友人から一冊の本が送られてきた。
 そのひとはときどき本を届けてくれる。
 1年半前にはトム・ハーパーの『いのちの水』(新教出版社)も送ってくれている。
 その本は『二番目の悪者』(小さい書房、2014年、以下本書とする)。林木林(作)、庄野ナホコ(絵)の小さな絵本である。
 主人公はライオン。金色の体毛で「王になる資格を持つ」と自負している。無気味な自我感情である。
 ところが、もうひとりのライオンがいて、信望をきわめて集めている。銀色の体毛である。
 主人公の金のライオンはウソを言いまくる。白を黒と言い、ウワサを流す。ライオンなのになぜかメールもじゃんじゃん広めている。
 「根も葉もない噂の広がりに 銀のライオンは、ただ苦笑いしただけで 何も言わなかった。 誤解はいつか必ずとけると思っていたからだ。 一部始終を見ていたのは、空に浮かぶ真っ白い雲だけ。 『嘘は、向こうから巧妙にやってくるが、真実は、自らさがし求め無ければ見つけられない』 雲はつぶやき流れていった。しかし、その声は誰にも届かなかった。」(本書P.42〜43)
 虚言によって政権をとった金のライオンは、どんどん社会の地盤を、いのちの基盤を崩れさせていく。つないできた言葉が崩れたからだ。そうして、金のライオンによる国民の財の私物化が始まり、破壊殺戮が繰り返された。
 「野原のすみで、野ネズミが静かに口を開いた。 『僕は聞いた話を、友達に教えてあげただけなんだよな。でも、自分の目で何一つでもたしかめたっけ……?』 向こうから時折、ゆらめく炎が上がる。」(本書P.54)
 以上だ。
 この寓話絵本の帯文に「考えない、行動しないという罪」「これが全て作り話だと言い切れるのだろうか」とある。
 どうであろうか。
 私は「おもしろい」と思った。
 大切な家屋や庭の樹木が溶解し崩壊している絵(本書P.48〜49)がいちばんよかった。まるで蟻地獄のように、あたかも何かのケーキが水溶し流落するかのように思えてくる。深い現代アート。
 私はこう思う。ひとりひとりの貪瞋痴の原始脳(ひとはそれだけでは生きてないけど、それだけで生きているときもある)に嘘を以て語りつづければ、たしかに信じて、洗脳されてしまうもんだ。歴史に学ぶことの困難さを示現している。洗脳は殺人よりも罪は重い。でも、この全体主義(ポスト全体主義)のいまにおいて、ひとりひとりの無力感・虚無感が何よりも切実。「二番目の悪者」(本書タイトル)以前の大問題。
 現実には嘘というよりイデオロギー(たとえば経済発展信仰イデオロギー)。不安にさいなまれるひとに安心を提供する。代償として、理性判断や責任、良心のすべてを捨てさせらせる。
 私たちには力があるのに。小さい、つつましい仕事を通じて、ひとびとと世界につながる力がいっぱいあるのに。
 学校や社会、メディアとネットによって洗脳されている。
(2月20日)

 

| 虫賀宗博 | いまここを味わう | 12:58 | comments(0) | - | - | -









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