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連載コラム「いまここを味わう」(第39回)三題噺

 落語に三題噺っていうのがある。
 与えられた、無関係な三つの単語(お題)を即興で組み立て、流れを生み出し、そうして即興で落として、決める。そんな趣向の芸のひとつである。
 ますます「生きるって、三題噺か」と思えるように最近なってきている。生きることの滑稽さ。いのちへの挨拶。何よりも即興であること。これら三題噺を生きているのである。
 生きることはいまでも不思議。謎。
 その不思議さに立ち会っていく。
 すべてに即興で立ち向かっていく。
 それが生きること。それは人生。
 大切な一日きょう、私たちはとにもかくにも生きている。
 しかし、やってくる一日あしたになったらきょうという一日が噺になっていく。物語に変わっていく。
 物語になって、新たに生きていくんだ。
 もっと世界全体が巨大で長大な物語なんだ。そう思っている——。
 いまから3月の、とある祝日の三題噺。
 鳥。本。酒。
 何でもない、小さな旅を明子とした話。
 ほんにそれだけのこと。
 短く綴る。
 その日、高島市新旭(しんあさひ)水鳥観察センターへまず行く。実はある友人が教えてくれ、この10年間行きたかったのである。
 1989年に設立。琵琶湖の湖畔にある、こげ茶色の変六角形の山小屋のような木造センター(入館料200円)。
 JR湖西線の近江今津駅から湖岸沿いに、てくてく歩いて、25分。バスはない。竹生島や伊吹山を眺めながらただ歩く。
 私は鳥が好き。1時間しかいなかったけど、マガモ、ホシハジロ、キンクロハジロ(オス、メスともいっぱい)を、設置されているスコープでのぞむことができた。のんびりと、たっぷりと。いいひととき。
 そうして再び今津駅のほうに歩いて戻り、無計画にぶらりと歩いて、高島市立今津図書館へ初めて入ってみた。「2004年に改築された」と聞く。全体として「ほんとうの図書館」ではないことにはすぐ気づく。でも、何せ京都市の図書館の低迷さに比べれば、滋賀の各館には奥行きがあって、いい感じ。
 図書館のおもしろさは、「本と出会い直すこと」と思う。
 出会いそこねた本にもういちど出会い直すのである。
 そんな本を本棚からとって、光あふれる南向きのイス(ソファー)に座して、ページをめくるのである。これもいいひととき。
 その日のラストは今津図書館から歩いて5分の池本酒造。小さな酒蔵である。「琵琶の長寿」という名の旨酒を小規模で出している。
 先代の池本久彌さんと知り合って25年か(久彌さんは12年前に亡くなっている)。
 私の酒の好みは、「湧水と米の両者の甘みを酵母が引き出している」こと。そうして価格が良心的なこと(旨さは値段とは全く無関係)。そうして何よりもつくり手の人柄が良いこと(久彌さん、すこぶる善良なひと)。
 池本まゆみさんから「きき酒」をさせていただきながら、おしゃべりした。まるで旧友のように。
 帰りの車中で、呑み鉄した。雪のない3月の比良山系を眺めながら、純米(生)の「琵琶の長寿」(四合、1300円)の封を開け、登山用マグカップに入れ、いただく。とってもいいひととき。
 お酒は飲まないほうがよい。でも、私は好き。月に半分(半分は無酒日)はいただいている。
 鳥。本。酒。
 無関係のようで、私の中で有機的に組み立てられ、生かしてくれている。
 生きてあることの三題噺。
(3月26日)

| 虫賀宗博 | いまここを味わう | 09:27 | comments(0) | - | - | -









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