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連載コラム「いまここを味わう」(第48回)獄中での気づき――自らのいのちの井戸を掘っていくこと

 黄大権(ファン・デグォン)さんの『野草の手紙――草たちと虫と、わたし 小さな命の対話から』(自然食通信社、訳・清水由希子、2016年、以下本書とする)を読む。
 『モンシル姉さん』(連載コラム「いまここを味わう」第42回「へこたれずに生きぬいていれば」)を送ってくれた友人から、本書も送っていただいた。
 『モンシル姉さん』と同じく、黄さんのことも本書のことも知らなかった。
 とってもありがたいことだ。
 何も知らないゆえに、本書もグイグイと読んでいった。とってもいい。
 黄さんは私と同じく1955年生まれ(著者近影が本書にあるが、表情がいい。笑顔だ。白髪の髭である)。
 米国留学中に「スパイ団事件」に巻き込まれ、無期懲役の宣告。全斗煥大統領時代の捏造である。無実の罪。金大中大統領が登場するまでの、なんと13年余りを独房で過ごすことに。ハンストなどのさまざまな抗議抵抗を5年間続け、失敗。
 疲弊絶望。しかも、日記すら書くことを禁止。
 腰痛、歯痛に気管支炎。体はボロボロである。
 どうするか。
 「自然と、自分の身体を観察することになります。ほかにすることがないのですから」(本書P.256)。
 「現在、あまりにも多くの物に囲まれていて、自分の身体を観察する機会がありません(略)。わたしは運よく刑務所に入れたために、そんな機会を得ることができました」(本書P.257)。
そうして、身体(韓国語でモム)の終音Mをハミングのように出しているときに、口びるの振動が起こる。このM音の振動の中で、天地(空と大地)と自分がひとつに。「この振えが自分の身体なんだ」という深い気づきがやってくる。
 気づきはすべてを変え始める。
 「ひと坪の部屋のなかで、わたしが宇宙なのだなあ、と」(本書P.257)。
 独房の中のハエ、クモも「わたしの身体の一部なのだ」と実感しはじめていく。
 1日1時間与えられている運動時間も外に出て、「運動場に生えている草を見ては、ああ、こいつもわたしの身体の一部なのだあ、とじっくり草々を観察し、健康のために食べるようになりました」(本書P.258)。
 刑務所長から許可を得て、運動場の片隅に自分の小さな野草園を造り、育てていくのである。
 80種の野草をそれぞれ絵にし(この絵が見事!)、獄外の妹あての手紙にした。獄中では日記もノートも禁止なので、この手紙だけが唯一の記録となり、出獄後に出版され、韓国で百万部を超えるベストセラーに。
 黄さんはその後、自然農を営みながら、生命平和村をつくっている。「生命は平和」という獄中での気づきの実践家にいまはなっている。
 「人間だけではなくすべての生きものが、この世界を美しくするために生まれてきた存在なのです」(本書P.11)。
 「社会変革運動においても、わたしにできる最善のことは『よく生きる』こと。そしてその生き方が世界の理と調和していけば、きっと“共鳴”は起こります。(略)世界を変えることはできなくとも、自分を変えることなら可能です。ひとり、またひとりと自分を変えていく。世界が変わるとはそういうことなのです。そしてあるとき、突然、共鳴が起こって世界は大きく変わるでしょう」(本書P.12 )。
 そのとおり。ほんとにホントにそのとおり。
 黄さんのようなひとに出会いたかった。話も直接に聞きたい。私自身が黄さんに“共鳴”している。
(5月29日)

| 虫賀宗博 | いまここを味わう | 10:00 | comments(0) | - | - | -









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