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連載コラム「いまここを味わう」(第70回)野生力――猫絵本から

 Mさん、木枯らしが吹き始めています。
 欅、楢の黄紅葉もいまここが盛んですね。きれいです。
 Mさん、お元気ですか。家族のみなさんも、そうして病気がちの犬も6匹の猫も、みんな、お元気ですか。
 もう何か月たったかな。絵本『なまえのないねこ』(文・竹下文子さん、絵・町田尚子さん、小峰書店、2019年、以下本書Aとする)を送っていただきましたねえ。Mさん、改めて御礼申し上げます。とってもいい絵本です。
 絵がいい。絵が立っているのです。主人公の野良の猫の孤独感を深い愛情をもって、くっきりと立ち上がらせているのです。
 他の猫たちには名前があって、自分の居場所がある。なのに主人公の猫の「ぼく」、小さいときは「こねこ」、ちょっと大きくなっても「ねこ」、一般名詞でしか呼ばれません。
 長雨が続いて、公園のベンチの下に佇んでいると、やさしい声が聞こえます。いい匂いがします(やさしいひとはいいエネルギーが出ているでしょう、猫にはわかります)。「ぼく」の希望が紡がれます。
「ぼく」は思います。「そうだ。わかった。ほしかったのは、なまえじゃないんだ。」「なまえをよんでくれる ひとなんだ」(本書A p.30〜31)。
 他にはないただひとつの名前。固有な名詞。それを呼びあう関係がほしい(猫は話をしませんけど、さまざまな声で呼びかけるからね)。瑠璃(るり)色の目の「ぼく」は「メロン」と呼ばれていきます。
 書店で同じ作者の町田尚子さんの絵本『ねこはるすばん』(ほるぷ出版、2020年、以下本書Bとする)を見つけました。いったん図書館で借りたのですけど、やっぱ、買い求めました。これもいい絵本。
 町田さん、本書Bでは間(ま)をつくっている。距離をとる。その間が笑いをつくる。そう思います。
 現在(いま)のイエネコは、アフリカの野生のリビアヤマネコが4000年前にひとのイエの中に入り、同居するようになったと言われています。ひとが農耕を始め、ネズミ対策だったかと思います。
 その野生の血がまだイエネコには濃く残っていますね。
 本書Bでは飼い主が外出した後のイエネコはハンターの血がどこか蘇ります。
 でも本書Bにおいては、その野生力に間をとり、夢のような笑いの世界を表出します。やんちゃなアハハです。

 

 本屋に入って、本の角で自らのヒゲをスリスリする。
 映画館に入って、暗闇で目をランランと光らせる。
 つりぼりに入って、マグロを釣ろうとし、あきらめ、寿司屋に入り、「ちゅうトロ、さびぬきでね」と注文(本書B p.19)。
 腹ごなしにバッティングセンターでカキーン。
 銭湯に入り、「ハアー、ごくらくごくらく」(同p.25)。

 

 実におもしろい。きっと猫たちは都市空間においても、こうして野生力を保って、生きてゆくことでしょう。ネコの野生力をもらっているような町田さんの絵もいいです。
 Mさん、猫は問題なし、です。ワシら人間がいのちの野生力を磨り減らしてしまっています。人間が弱っている。
 MさんがパソコンもTVもない暮らしをしているのは、いいと思います。風の音、日の光、星の輝きを少しでも感じてゆけるでしょうから。ひとつでいいから便利品を断念するっって、これから大切になる。野生力です。
(10月29日)

| 虫賀宗博 | いまここを味わう | 11:05 | comments(0) | - | - | -









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